黒馬物語 by アンナ・シューエル

今回ご紹介するのは、『黒馬物語』の絵本版です。絵本版ってことでだいぶ省略されてますが。最初は、『黒馬物語』の原作である”Black Beauty”を原文で読みたいなーって思ったんですね。ですがこの絵本があることを知り、まずこっちで概要を頭に入れてから読んだ方が理解しやすいだろうなーって思ったんで、こっちを先に読むことにしました。絵本なのでイメージもつかみやすく良かったです。とっても良い話です!まだ原文はこれからですが、とりあえず絵本の振り返りだけしときます。

最初の家

ブラック・ビューティーはとある家で生まれました。全編、馬である彼の語りによります。生い立ちなどが語られますね。狩の話だったり、調教されるようになる=人を乗せて運ぶようになる、話だったり。

最初の家のあと、ブラック・ビューティーはバートウィック村のお屋敷で地主ゴードンさんの元で飼われることに。ジョン・マンリーというのが調教師でした。

動物の五感が優れていることに関する描写などは興味深いです。人間には理性がある。だが動物には予知能力(五感と同義語として使われているのかな?)というものがあり、これは人間にはないものである。これはどういうことかっていうと、ある橋を渡ろうとした時、ジョンはいけると思ったんですが、ブラック・ビューティーは嘶いて立ち止まる場面があるんですね。で、そのすぐ後に橋の向こう側から「橋が壊れかけてるから渡るな!」っておじさんに言われたんです。そういうの、人間ではやはり分かりかねることです。それをなぜブラック・ビューティーは悟ることができたのか。まさに五感ってやつなんでしょうかね。

その後、新入りのうまや番としてジョー・グリーンってのが来たりします。でもまだ子供みたいなやつで、馬についての知識も浅かったんです。ある時、ブラック・ビューティーが仕事から戻ってきたとき、このジョーが世話をしてやるんですが、本来は馬にはなんか着せてあげないとダメらしいですね?じゃないと寒くて風邪をひいてしまうらしいんです。でもジョーは知らなくてそれをやらなかったんです。翌日ブラック・ビューティーはとても弱ってしまったんです。ジョン・マンリーは大事な大事なブラック・ビューティーがこんなことになってしまい怒ります。ですが、ジョーの親父が「あいつは無知なだけだったんだ、許してやってくれ」って言うんですね。ジョン・マンリーはジョーがわざとやったわけではないことは分かっているし、新人でもあるので、大目に見てやらないと、とも思っていました。しかし、この親父の「無知なだけだったんだよ」という言葉に激怒します!

「単なる無知だと!単なる無知だと!悪意があろうとなかろうと、そいつが世の中で一番始末が悪いんことだって知らねえのか。誓って言うが、そいつが一番罪深いことなんだ」(25)

とても響きました、このセリフ・・・。おお・・・。無知は罪という言葉、ありますね?私もこの言葉、信じます。中には「いや、無知は罪じゃない!」という人もいるでしょうけどね。でも私は本当に無知は罪だと思いますし、一番始末が悪いってのもよく分かります。知ってて悪いことをやるのももちろんダメですが、なぜ無知が始末が悪いかってーと、無知だったから自分は悪くない!ってなる輩が多いからじゃないですかね。知ってて悪いことをやる奴は、自分が悪いってことをわかってる。でも無知な奴は、自分が悪いとも思ってないし、何か悪さを意図的にではないとしても、やったときに「知らなかったんです!」って言えば済むと思ってる。だからこそ、無知ってのは、知ってて悪さをするやつ以上に、始末が悪いと言えるだろう。知らなかったでは済まないことが世の中にはいくらでもある。だから無知は罪だと思います。

そんなこんなありましたが、ブラック・ビューティーは美しい馬として愛されておりました。が、主人の奥さんが病気になったことを機に、ブラック・ビューティは売られてしまいます。

今度は伯爵邸でした。ブラック・ビューティーはジンジャーという雌馬とも仲良くなります。支頭手綱というものをつけられ、苦しむブラック・ビューティーの姿など描かれます。これ、当時のヴィクトリア朝時代のイギリスでよくやられていたものらしいんですが。馬って普通にしてたら、ちょっと頭が下がる感じですよね、下を向いている感じ。これがダラーっとした感じに見えるからなのか、支頭手綱というものを馬につけて、それをつけることで、馬の頭を前に向かせるようにできるんですって。そうすることで、ピシ!って感じに見えるんです。貴族とかがそれを好んだらしいです。まあ、ファッションですね、単なる。でも馬からしたら、不自然な格好にされるわけで、苦痛があったようです。でもアホな人間にそれが分かるはずないですよね。あるいはわかったとしても、見栄えが悪いのは嫌だから支頭手綱は絶対つけないと!ってなったのかな。はあ・・・。呆れますね。ま、今の時代でも動物を人間の思うように扱おうとする人は多いですけど。

当時はコルセットもありましたし、人間だって苦痛を偲んででも見栄えを良くしようとしてました。人間がやるのはどうぞご勝手に、ですが、それを馬にも強いるとはねえ・・・。

その後はさらに、貸し馬屋の親方に売られてしまいます。こいつがひどい乗り手だったようで、ブラックビューティーはこき使われます。ここら辺、ジャック・ロンドンの『野生の呼び声』を思い出しましたねえ。いつだって人間は邪悪なんだ。動物の純粋無垢さに比べたら。

この時、仲間だったローリーという馬がいたんですが、こいつは怪我をしたことで炭鉱に売られたんですって・・・。ブラック・ビューティーはそこで馬がどんな運命を辿るのか知る由もなかった、となっています。これまた!最近読んだエミール・ゾラの『ジェルミナール』を思い出しました・・・。この作品はまさに炭鉱を舞台にした作品だったんです。で、馬が2頭ぐらい描かれていたのを思い出しました。この馬たちは生涯ずっと炭鉱に閉じ込められていて、もはや太陽の光すら見ることがなかったんだそうです。可哀想すぎる人生ですよね・・・。坑夫達も搾取されて、大変だったのですが、それでもまだ陽の目を見ることはあったんですよ。でも馬達は・・・。はあ。悲しいですね。

無慈悲かつ無知な人間どもの描写が続きます。

さらにさらにブラック・ビューティーは売られます。奴隷ですね。完全に。

ジェリーという辻馬車の仕事をしている男に買われます。ジェリー自体は悪いやつではなく、むしろ良心的でした。だが辻馬車の仕事自体かなりハードだったようです。今でいう、タクシー的な感じでしょうかね。人間を運ぶ仕事ですから・・・。重労働です。客は、辻馬車&運転手を呼んでおきながら平気で待たせたりする。雨の時など、寒さに凍えながら馬も運転手も数時間も待つなどよくある話だったそうです。

ある日、馬車を引いていると、あのジンジャーと偶然再会しました。しかしなんと変わり果てた姿だったことか!ジンジャーもまた、多くの乗り手達にこき使われてきたのでしょう。老いさらばえておりました。こんなこき使われて過ごすくらいならとっと死んでしまいたいわ、かつて強気な性格でブラック・ビューティーを楽しませていたジンジャーも、人間にダメにされていたんです。

ジェリーはとうとう病気に。辻馬車の仕事を辞めることにし、ブラック・ビューティーは売られます。

次もそのまた次も、飼い主に恵まれず、散々こき使われるブラック・ビューティー。最初の家ではあんなに大事にされたのにね・・・。奴隷の辿る一生と似ていて、泣けてきますね・・・。

最後の最後・・・。精根尽き果てたブラック・ビューティーを見つけたある紳士に買い取られることになります。ここが最後の家となりました。そしてなんと!あの時のジョー・グリーンが!大人になったジョーと偶然の再会をします!偶然、ここで働いていたのですね!ジョーは「もう二度とお前を苦しめないよ!」と優しく声をかけました。ここのお嬢さん達にも愛され、ブラック・ビューティーは幸せな終の住処を見つけることができたのでした。

絵本版、ざっと振り返りました。原文を今度読むつもりなので、その際にもっと詳しく書きますが、まずはこんな感じで。いや、泣けます。絵本なので短いですがね。おそらく原文を読むともっと泣くんじゃないかなって。奴隷のような一生です。まあ、同じ人間を家畜のように扱うような人間がいるわけですから、馬を奴隷にように扱う人間がわんさかいても驚きはしませんが。現代だって果たしてどれだけの動物がちゃんと育てられているかって話でさあ。

ま、とりあえず今回はこの辺で。次回全編しっかり読みますね!

で!この絵本は、挿絵も豊富だし、当時の実際の写真もたくさん載っていて、図鑑のような感じで楽しめます。馬車の絵とか、支頭手綱の写真とかね。当時のヴィクトリア朝時代、馬がどういう扱いを受けていたのか、とかそこら辺も歴史に触れながら読むことができるので面白かったです。小説として読むのももちろんいいですが、歴史好きな人はこちらの絵本版の方がより楽しめる可能性もありますね。

原題:Eyewitness Classics: Black Beauty / 出版:1997

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